ダイハードテイルズ

ニンジャスレイヤー翻訳チームの母体である「ダイハードテイルズ」の公式ページです。「ダイハードテイルズ」は、本兌有と杉ライカを中心とした作家ユニットです。

【ペイルホース死す!】#1

1:侵犯者は五人

天の下、地平めがけ幾重にも折り重なる丘の表面を絨毯のように覆う黒い麦の穂は、この穀物プランテーション惑星の主要な輸出物であり、双子王の富の源である。では、まっすぐに伸びる舗装道路の脇に等間隔で突き立てられている棒状の物は? 柱? 道路灯? アンテナであろうか? 否。

近く寄って見れば、それがなにか、すぐにわかろう。樹木を削って作られた長い杭……串……礫……のようなものだ。天を指す等間隔のそれらには朽ちた骸骨が絡みつき、空っぽの眼窩を晒している。つまりそれらは、この星の所有者の権威の……恐怖の象徴である。

黒雲は空で渦を巻き、グルグル、ゴロゴロと重苦しい雷鳴の唸りを地上に投げかけていた。雲間に閃くのは紫の雷光である。まこと恐ろしい光景である。だがそれは無慈悲な双子王に属するものではない。自然の営為でもない。あるテクノロジーに関わる、先駆の現象だ。

ゆえに、この星を守る双子王の私兵は既に「予測地点」の割り出しを終えており、磔死体が列を為す舗装路に、ライフルや光の槍で武装した兵士達を配置、やや離れた丘陵に移動式の指向性アンテナ装置を向けて備えていた。

KABOOM! 稲妻が磔の一つに落ち、焼き焦がす。「見ろ」誰かが指差した。

その瞬間、厚い雲の中から、柩じみた錐型の影が落下してきた。落ちながらそれは位相を合わせ、くすんだ金属の質感をあらわしながら、空中にぴたりと静止したのである。言わずと知れた星間航行船だ。「来ました」副官が隊長を振り仰いだ。隊長はいかめしく頷いた。「言わずともわかる」

「表面に」副官はスコープゴーグルで覗き込んだ。「船名? 風化した言語で……」隊長はスコープゴーグルをひったくった。「PALEHORSE?」水飛沫を思わせる独特のブリンク音が空気を震わせた。「備え!」副官が叫び、天に向かって青のスモーク弾を撃った。兵士達は一斉にライフルを向けた。

1つ、2つ、3つ。「PALEHORSE」の付近の地上の空間に波紋が生じ、砂嵐じみてザラついた。兵士達はみな引き金に指をかけ、上官の攻撃指示を待つ。光の槍が内なる輝きを放ち始める。波紋は全部で5つ。ブリンクアウトしてきた者も……5人。「……」隊長は唾を飲む。たったの5人?

「攻撃指示は……」副官は隊長の指示を仰いだ。隊長は留めた。侵犯者は僅か五人。密入国者の類いか? だが彼の背中はじっとりと汗ばんでいた。名状しがたい恐怖が彼を、副官を、否、兵士達全員を捉えていた。その者らの佇まいが自ずと放つ、極めて不穏な「暴」の気配に打たれたのだ。

隊長は副官を促した。副官は頷き、警告を開始した。「貴様らは事前の許可なく我らが星の大気圏内に侵入したゆえ……」唾を飲み、「これは光芒法の……」

カシュッ。副官の眉間を矢が貫き、後頭部から血塗れの矢尻が飛び出した。

2:殺す者ら

「……続けろよォ?」モヒカン髪の男が笑いながらクロスボウを下ろした。

「あ」副官はサイボーグ馬の背から仰け反り落ちた。「イヒ、イヒヒヒ、ヒヤハハハ」モヒカン男は禍々しい鋲打ち鎧を震わせ、哄笑した。「アハハハハハ! 死ヒハハハ!」

「撃……」隊長の指示は降りなかった。その首が横に裂け、血が噴き出した。ナイフを持つ右手が横に浮かんでいる。手首から先だけが。

「赤ァい」黒髪の女が囁くように言った。「この星の人、イイ」かざした右手は手首から先が失われている。失われている? 否、たった今、数十メートル離れたところで隊長の首を切り裂いた奇怪な手の持ち主は、この女だ。極彩色のボロ布マントから左手を出すと、やはりそちらも手首から先が無い。

指揮官を失った兵士達が恐慌に崩れ始める。「上……上だ」誰かが指さした頭上、サブマシンガンを持つ左手が浮かぶ。それは引き金を引きながら旋回する!「ヒイーッ!死……」BRATATATATA……「死!」「死ィ……!」「アーッ!」マズル光! 血飛沫! 何人かが宙に撃ち返す。無意味だ!

BOOM! BOOM! 光の槍がエネルギーを放出する。モヒカンと女は左右に走り出す。エネルギーはコンマ数秒前に彼らの居た場所に着弾し、芳醇な栄養素を誇る穀物を土ごと爆散させる。「ヒャハア!」モヒカンは走りながらクロスボウを撃ち込み、殺してゆく。女の両手が逃げ惑う兵士を殺戮する。

BOOM! BOOM! BOOM! 掃射は残る三人にも及んだ。三人目……染みのようにわだかまるフード姿の男は包帯で覆われた腕をさらし、指先で奇怪な形を作る。フードの奥の闇に閃いた眼光だけを数秒その場に残し、消えた。四人目……3メートルを超す四角い巨体の持ち主は、無造作に歩き出した。

エネルギー弾は男の脇腹を溶かしながら貫通したが、彼はまるで無頓着だ。傷口から不気味な金属の長虫が無数に這い出し、繊維のように織り合わさって、塞いでしまった。男は笑顔に似た表情を作る。眉毛も頭髪も生えておらず、空虚な右目の上には風化した言語で「BOZO」と刺青されている。

そして五人目……平均的人類であればおそらく14,5歳頃の少年は、襟を立てた、いやに不似合いな禍々しいコートを着ていた。己に向けられた光の槍に目を見開き、守るように咄嗟に手をかざした。焦茶の目には死への恐怖が隠しようもなく滲んでいたが、気づいた者は無かっただろう。

少年は立ち尽くしたように見えた。だが、焼かれて死ぬことはなかった。黒い甲虫めいた小さな影が羽ばたき、エネルギーの軌道に割って入った。BOOOM……爆発が散る。甲虫めいた存在はその場でホバリングしながら両手を拡げている。少年は無事だ。ガラスのようなカーテンが煌めき、消えた。

「無論、問題ありません」甲虫は少年を振り返り、起伏のない声を発した。少年は緊張した面持ちで頷いた。甲虫は頷き返した。「気をしっかり。大将らしくなさい。キャプテン・デス」甲虫の発した名は、どうやら風化した言語だった。それは極めて不吉な響きだった。キャプテン・デスは再度頷いた。

3:少年

「アッハッハッハアー!」涎を散らして笑いながら、モヒカン男はクロスボウを腰に戻し、かわりに手斧を取り出した。「ウアアーッ!」BRAKKABRAKKA……叫びながらモヒカン男にライフル掃射をかける兵士の足元へ滑るように走りこみ、足首を切り裂く。「死ィーヒヒヒ!」そして跳ぶ!

モヒカンの殺戮から数十メートル離れ、女は血飛沫の中を優雅に歩く。周囲を2つの手が高速で旋回し、ナイフの斬撃と銃撃を哀れな兵士に浴びせ続けている。さらにその数十メートル離れた位置では、「BOZO」が一人また一人、逃げる者を掴み、道の上に叩き伏せ、拳でプレスするように殺していた。

ブオウー! その時、増援のラッパが鳴り響き、地鳴りとともに馬上の一団が丘を駆け下りてきた。「あれを」甲虫が促す。少年はホルスターから同時に二挺の銃を抜いた。まるで少年にそぐわない、黒玉で装飾された白い鋼の銃だ。「上位ネットワークの認証は自動です」甲虫が言った。少年は頷いた。

「恐れることはない。ウンブダがサポートします」甲虫は言った。ドウ……応えるようにスナイパーライフルの音が響き、今まさに馬上から少年をライフルで撃とうとしていた騎兵の頭が弾け飛んだ。ドウ……ドウ……更に一人。また一人。「ウンブダ」はどこか見えない遠くに伏せているのだ。

BLAM! BLAM! キャプテン・デスは顔をしかめ、歯を食いしばり、夢中で引き金を引く。遂に一人が胸と肩を撃ち抜かれ、サイボーグ馬を転がり落ちる。BLAMBLAMBLAM……騎兵は少年にライフル弾を撃ち返すが、甲虫は再び煌めく光のカーテンを瞬時に展開、それらを弾き飛ばす。

「気の持ちようです」甲虫は無感情に囁いた。「最低限の訓練は出来て……さあ、後ろ!」キャプテン・デスは銃をホルスターへ素早く戻し、サーベルを抜いた。刀身には前足を高く上げた雄々しき馬の飾り彫りが施されている。それは彼の船の……彼の集団の……象徴であった。青ざめた馬。

イレギュラーな動きで回りこんできた騎兵ががサーベルを振り下ろす。キャプテン・デスは息を止め、応戦する。2つの刃が噛み合う。デスの刃は騎兵の鉄を容易く折った。デスの刃は唸っていた。高速で震動しているのだ。ドウ……そこへウンブダの狙撃。騎兵の頭が爆ぜる。ドウ……馬の頭が爆ぜる。

騎兵の死体が倒れ込み、キャプテン・デスは転ばぬように踏みとどまる。「ハッハァー!」サイボーグ馬を奪ったモヒカン男が丘を縦横にかけ、逃げ惑う者たちを背中から斬り殺していく。「ままごとの調子はどうだよ、坊やチャン」キャプテン・デスの耳元で、女が囁いた。少年は凍りついた。

「ん?」女はニヤニヤ笑い、口元の血を舐める。彼女は返り血で己の顔に戦さのペイントを施している。甲虫が間に割って入る。「死ぬことになります。ミメエ」「ただのお喋りだよ、虫チャン」「……」キャプテン・デスはグッと睨み返した。「ホ!」ミメエは肩を竦めた。分離していた手が収まった。

「おう! 来た来た! キタゼーッ!」モヒカン男が鞍の上に立ち、虚空を指さした。巨大なブリンクアウト兆候が三つ。「来るぜ! 来るぜ! ヒャハアー!」モヒカン男はいきなり己の騎馬の頭を斧で割った。特に意味は無い。「BOZO」は死んだ兵士の頭を数分に渡って両手で殴り続けている。意味は無い。

4:鉄の巨人

丘陵地帯には今や死と沈黙の帳が降りている。血が黒い麦を染め、四肢や肉片が広範囲に散乱している。水飛沫じみた独特の音が響き渡る。ミメエはゴキゴキと音を立てて首を鳴らす。そして欠伸をした。「肉じゃないね」「でッけえぞ! おいコラ! ボゾ!」モヒカン男が「BOZO」に叫んだ。「働け!」

「ハハ……」ボゾは苦笑いのような表情を作り、死体の蹂躙をやめて、空間の歪みに向き直った。BOOOM……ひとつ。ふたつ。みっつ。ブリンクアウトしてきたのは、体長15メートルを超す鋼鉄の逆関節巨人達だ。「タロス級」甲虫が呟く。「ウンブダの観測によれば、どうやらこれで打ち止めです」

巨人達の単眼が緑の光を放ち、腕の機銃が重苦しく狙いを定める。「ヤベェーッ!」モヒカン男が転がるようにキャプテン・デスのもとへ走りきた。甲虫のバリアをあてにしての行動だ。「働け、ボゾ!……で、ザラカは何やってンだ?頭(かしら)ァ、あいつ怠慢だぜ。制裁した方がいいですぜ!」

「さっさとバリア張りなよ、虫ちゃん」ミメエがキャプテン・デスの肩に手を置き、甲虫を促した。「アタシら全員、ソースになっちゃうよ?」「タイミングがあります」甲虫は無感情に答えた。BRAKKABRAKKABRAKKA! 巨人達が大口径機銃で攻撃を開始した。甲虫は煌めくカーテンを瞬時に拡大させた。

「耐えられンのか? オイ!」光と轟音の中、モヒカン男がキャプテン・デスの陰にしゃがみこんだ。「長くは耐えられません」甲虫が無感情に言った。「アア? そンなら、頭ァ! 俺の盾になってくれェ!」「死ぬことになります。ギャス」「言ってみただけだ、虫野郎! 畜生め!」ギャスは唾を吐いた。

BRAKKABRAKKABRAKKA……「ですが、長くはかかりません」甲虫が言った。応えるように、タロスの一体の踝が火を噴いた。ウンブダの狙撃だ。撃たれたタロスがバランスを崩すと、さらに逆の脚の膝関節が火を噴いた。ぎこちなく倒れるタロスの横で二体はバリアへの掃射を続ける。

轟音とともに倒れ込むタロスに向かってノソノソと無造作に歩いて行くのは、ボゾだ。大男は露出した関節部の損傷に片手を滑りこませ、埋め込んだ。ボゾの腕の皮膚を破って中から先ほどと同様の鉄の長虫が這い出し、侵食を開始する。ボゾは身を屈め、痙攣するタロスの中へ押し入っていく。

BRAKKABRAKKABRAKKA……甲虫のバリアが白熱を始めた。ミメエが欠伸をした。ボゾの姿が見えなくなった。やがて倒れていたタロスはぎこちなく震えながら起き上がった。そして、いきなり手近のもう一体に掴みかかり、引きずり倒した。そして繰り返し殴りつけた。

ボゾは今、タロスの中に居る。乗っ取られたタロスの関節部では無数の鉄の長虫がうねくり、脈打った。先程兵士を蹂躙したのと同じように、ボゾのタロスは、淡々と、ゆっくりと、倒れて痙攣するタロスを殴り続けた。もう一体は掃射を止め、異状をきたしたタロスに逆の手の赤熱ブレードを突き刺した。

「ガガゴ、ガガガギ」ボゾのタロスは奇怪な唸りを発し、苦悶した。もう一体のタロスが赤熱ブレードを抉り込んだ。「ヤベェじゃねえか! しょうがねえ奴だ! ボゾ!」ギャスが叫んだ。「制裁が必要ですぜ!」「ちッたあ黙ってなよ、屑男」ミメエが閉口する。「どうする」キャプテン・デスが呟く。

「問題ありません」甲虫が答えた。「突入時間は計算ずくです。あれを」一同は示された方角の空を見た。隕石? 否。それは……「ザラカ」キャプテン・デスは呟いた。大気圏を貫き降りてきた影は、空を裂く咆哮を放ち、巨大な翼をひろげて落下衝撃を打ち消した。厚い雲が放射状に吹き払われた。

ザラカはもう一度吼えた。殺されなければ死ぬ事がなく、生身で星々をわたる力をもつ竜族が、他の知性体を侮り、驕り高ぶるのも無理はない。だが竜の時代は終わった。ザラカがキャプテン・デスに逆らう事も、できはしない。竜は羽ばたき、空気を噴射し、強烈な速度で飛び来たった。

5:第六の侵犯者

「AAAAARGH!」強風と共に滑空してきたザラカは、タロスの上体に喰らいつき、ボゾのタロスから引き剥がすと、宙へ持ち上げ、首を振って投げ飛ばした。KABOOOOM! 丘陵に叩きつけられたタロスは青い炎を噴きながら爆発し、鉄屑と化した。

「よく頑張りました」甲虫はバリアを消し、少年を振り返った。「よく頑張りました」ギャスは裏声で甲虫の真似をした。「ペッ! ふざけやがって。オイ! 休んでンなよ、ボゾ!」「ムム……」唸り声がタロスの中から漏れ聞こえた。ミシミシと音を立て、鋼を剥がしながら、ボゾがタロスから抜け出した。

「ボゾ! テメェがチンタラしてやがるから、ドラゴン野郎が調子に乗りやがる」手近の麦の穂をちぎりながら、ギャスがボゾを罵りに行く。「フームム……」ボゾは笑顔に似た表情を作る。『終わりか?』竜が人語を放つ。バサバサと音を立ててホバリングする彼の身体は、翼を除けばタロスよりも小さい。

着地したザラカは翼をたたんだ。すると、その身体は不可思議に縮んだ。数秒後、そこには人類に似た背格好の、髭を生やした竜頭の男が立っていた。彼は腕を組み、侮蔑的に鼻を鳴らしたようだった。あれが竜人だ。銀河を蹂躙した59体のうち58体は既に殲滅された。ザラカが最後の生き残りだ。

緊張を解き、ようやく息を吐いたキャプテン・デスは、立っているのがやっとの様子。その目の前の空間が歪み、フード姿の男が再び姿を現す。ウンブダ。「二重の声がエーテルの狭間で優雅な踊りを。秘蹟? 彼らの行い? なんと恐ろしく……」「双子王の城の方角は?」キャプテン・デスが尋ねた。

「向かわれるか? すぐに? なんと……」ウンブダはローブの中から茶ばんだ皮紙とガラスペンを取り出し、捻れた筆致で何かを描いた。この星の地図である。「局地的な嵐……油……そうしたもの……」「移動しましょう」甲虫が言った。「じき、次の戦力が投入される」「虫は黙れ」とギャス。「頭ァ?」

凶悪な顔、そして凶悪な顔が、少年を凝視した。少年はグッと力を込め、彼ら一人一人を見返した。「出発する。時間がない」「そうこなくちゃ」ミメエが不気味に笑った。ミメエは殺戮を望む。ギャスは少年をじっと見た後、歩き出した。他の者も。

キャプテン・デスは恐怖を押し殺す。とにかく彼はこの者らを使役できる。でなければ、この者達は笑いながら彼を引き裂くことだろう。しかし実際、この者達にそれはできない。彼はキャプテン・デスなのだから。キャプテン・デスとして、彼にはこれから、為さねばならない事がある。

#2 に続く

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