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ダイハードテイルズ

ニンジャスレイヤー翻訳チームの母体である「ダイハードテイルズ」の公式ページです。「ダイハードテイルズ」は、本兌有と杉ライカを中心とした作家ユニットです。

【ペイルホース死す!】#3

小説 ペイルホース

 

1:腕輪

初に彼女が認識したのは、頭上すぐのところにある天井の光だった。不思議な色彩の照明だが、あまり長く見ていると、おかしくなりそうだった。それから壁がわかった。彼女がいる場所はそう広くない。彼女は壁に触れた。壁の向こうで何かが動いている。人だ。この壁は磨ガラスのようなものだ。

磨ガラスの外で、ぼやけた人影同士が、なにか言葉をかわしていた。おそらく彼女に関することだ。次に彼女が耳にしたのは、唸るような駆動音だ。彼女は壁に触れた手を動かし、さぐった。八方を壁に囲まれたこの空間が、当初考えていたよりもずっと狭いことに、すぐに気づいた。部屋? もっと狭い。

それはまるで、ガラス瓶だ。彼女はガラス瓶の中にいる。頭上にはコルクのかわりに、嫌な照明がある。「助けて!」彼女は叫び、目の前の壁を……ガラスを叩いた。繰り返し拳を叩きつけた。ふいにそれが消失した。ガラスが開かれたのだ。彼女は悲鳴を上げ、外の空間にまろび出た。誰かが受け止めた。

全身を防護服で覆った二人が、彼女を抑えつけた。指がグイと近づき、彼女の瞼を無理に開いて、光で照らした。もうひとつの手が伸びて、彼女の首に、冷たいなにかを嵌めた。金属製の首輪だ。「異常無し」彼女は防護服の男に引きずられた。首輪には鎖がついていた。それを引っ張られたのだ。

「ゲホッ、痛……」彼女は訴えようとする。防護服の者達はまるで無視だ。ああ。彼女は瞬きした。いつもと似た雰囲気が戻ってきた。これなら、理解できる。彼女はこれ以上無駄に苦しまぬよう、彼らに続いて歩き出した。だが彼らは数歩も歩かぬうちに、急に足を止めた。背中に鼻がぶつかった。「痛!」

立ち尽くした防護服の者達の肩越し、彼女は廊下の前方に現れた男を見た。アルビノで、ひどく痩せており、彼女よりも小柄だ。防護服の者達は狼狽し、礼の動作を取ろうとしたようだったが、結局わからなかった。なぜなら、鎖を牽いていた者の頭が、まず爆発した。

「愚か者」アルビノの男が呟いた。「ア……申し訳!」二人目の防護服もやはり、言動を完遂できなかった。「ありませ!」頭が爆発した。今度は彼女も何が起こったかをある程度理解できた。アルビノの男は右手を前に突き出していた。その手の腕輪が緑に光っていた。あの腕輪で……。

「どうか!どうかお気を確かに!」三人目……最後の一人が膝を床につき、額を擦りつけた。「ご覧のとおりこの女も無事に覚醒し、」「私は正気だ」アルビノの男は吐き捨てた。「私の所有物をさよう無作法に扱う、すなわち大逆である」「エッ!」かざした腕輪が強く光った。三人目の頭部も爆発した。

彼女は言葉を失い、ただ震えた。無機質な回廊の床に、壁に、吹き飛んだ肉と血が嫌な赤色を添えていた。アルビノの男は三つの首無し死体を忌々しげに見下ろし、舌打ちを一つ。己の耳朶の飾りに触れ、「片付けろ」と呟いた。おそらく通信の類だ。それから彼は両手をひろげ、笑った。「ようこそ!」

2:〈西の夕闇〉

「ア……」「無理もない。嫌なものを見せてしまった。それに、ひどく汚してしまって。すまない……こいつらがあんまりクズだから」アルビノの男は顔をしかめ俯いたが、顔を上げると、再び満面の笑顔だ。「でも、すぐに綺麗にするよ!」彼は彼女の肩を掴んだ。「夢みたいな暮らしが待っているよ!」

アルビノの男は彼女の手を取り、率先して歩き出した。「あんまり待ちきれなくて、君の様子、直接見に来てしまったんだ。でも、本当によかった。まさか目覚めていただなんて。やはり私はいつも正しい。そうだろ?」歩きながら、彼は振り返った。「……そうだろ?」「はい」彼女は素早く頷いた。

「なんて素晴らしいんだ……」アルビノの男は歓喜に打ち震え、さっきよりも早足に歩き出した。「すごくしっくり来る!運命だ。やはり君を連れてきた私は正しかったよ。アイツじゃない。私の選択だ。君は幸運を喜んだほうがいい。もし私じゃなくて奴がこうして来ていたら……わかるね?」「はい」

「とにかく、これで1点先取というところだな……奴め……」彼はブツブツと呟いた。そして急に立ち止まった。「痛!」彼女は背中にぶつかった。アルビノの男はにこやかに振り返り、彼女をハグして、頭を撫で、彼女の髪に指を絡めた。そして囁いた。「私は〈西の夕闇〉だ。君の名は?」

「名前は……」彼女は言い淀んだ。名前は無い。〈西の夕闇〉は怪訝そうにした。その表情が曇り始める。彼女は〈西の夕闇〉から身を離し、答えた。「イルダです」「イルダ?風化した言語?」「わかりません」「そうか。まあ、いいさ。イルダ。君はとても幸運だ。私の妻になるのだからね」

「その……」彼女は勇気を振り絞った。「ここは何処ですか?私はどのくらい眠っていたのですか?」「質問?」アルビノの男は首を傾げた。「なぜ?」「貴方の事をもっと知りたいのです」〈西の夕闇〉は困惑したように首を振った。彼女は奥歯を噛み締めた。よくない刺激を与えただろうか。

「そんな事を言われてもな……。どうして私に質問などする?」彼女は緊張した。かわす言葉に、常に不可解なすれ違いがある。彼の目は虚無に輝いている。恐ろしい。だが、結局彼は答えた。「この星に名は無い。所詮、つまらぬ農場だ。強いて言えば、我らの名をとって、〈双子王の星〉とだけ」

回廊の突き当りには、乾燥蔦で装飾された瀟洒なつくりの柵扉が待ち受けていた。「私が君を買い取り、〈蠱惑〉から自由にしたのだ」カコン……静かな音を鳴らし、柵扉が左右に開く。「中へ」〈西の夕闇〉が促した。「昇降機だ。何の心配も要らない。ここは君にとって何一つ心配の無い世界だよ」

カコン……二人を迎え入れると、柵扉が閉じた。彼女は上昇を感じた。「まず湯浴みだ。君は汚らしいから」<西の夕闇>はクスリと笑った。「ずっと君で遊びたいけど、そうもいかない」彼は呟き、それから真顔になり、顔を近づけた。彼女は後ずさった。「イルダ」「はい」「侍女に君を預けるが……」

〈西の夕闇〉はイルダの鎖骨に警告めいて指を当てた。「従うべき侍女は、私に属する侍女だけだ。すなわち緑のリボン。青の侍女が近づいてきたら、決して近づくな。緑の侍女から決して離れてはならぬ。もとより離しはせぬが、念の為言っておく」「はい」「青は〈東の白夜〉のしるしだ。許さぬぞ」

「……はい」昇降機が停止し、柵扉が開いた。<西の夕闇>はイルダに言った。「君はこのまま降りずに上がれ。侍女を待たせてある。湯浴みをしなさい」彼は言った。「私は<東の白夜>と折衝せねばならない」「はい」「何の心配も要らない。君は自由なんだ……」

イルダは一人になった。昇降機は上昇を続ける。彼女はふいにその場に座り込み、大粒の涙をこぼす。彼女は弟のことを……唯一の肉親を想った。彼に名前があれば、その名を呼びもしただろう。しかしイルダにはただ、呻き、嗚咽するしかすべがないのだった。

3:〈東の白夜〉

「断る」〈西の夕闇〉は己の拒絶を嘲りと敵意で彩った。彼は長方形の食卓の一方の端に座っている。反対側には〈東の白夜〉が居るが、〈夕闇〉の席からは、おぼろな影しか見えはしない。この食卓は双子王の城における緩衝地帯だ。通常の方法で彼ら双子がお互いのもとへ到達する事はできない。

「卑怯者め」〈白夜〉の声が届いた。〈夕闇〉は笑った。「卑怯? 卑怯と言ったか。違うな。貴様が愚鈍なのだ。覚醒室への立ち入りに取り決めは無い。愛の深さが速度に現れたな。私には適切な判断力があり、幸運にも恵まれていた。彼女は私にすがりつき、私に庇護される喜びに震えた……」「黙れ!」

「彼女の名を、私は持っている」〈夕闇〉は恍惚じみて言った。「お前は持っていない!」「ウヌーッ!」〈白夜〉は椅子を蹴って立ち上がり、なにかをテーブル越しに投げつけた。皿か、ナイフか、肉か。ループ障壁越しにその詳細は確認できない。飛来物の影は両者の中間の空中に停止した。

飛来物は静止しているのではなく、無限に進み、戻され、進み……を繰り返している。食卓の中間地点を隔てる不可視の障壁に囚われた為だ。やがて飛来物は崩壊し、消滅する。「教えて欲しければ乞うといい!この私に!」「黙れ。私が後により適切な名を与えてやれば済む話だ。調子に乗るな臆病者め」

「臆病?聞き捨てならんな」「事実だ、臆病者」〈白夜〉は繰り返した。「貴様が姑息に立ち回っておったまさにその時、私は国難に備え、万端、手を打った。つまり我が妻を危険から守る為にだ。私の愛は貴様以上に深い。目先の情欲にとらわれる貴様には発想もできまい」

「国難だと?」「知りたいか」「……」〈夕闇〉は爪を噛んだ。今度は〈白夜〉が仕掛ける番というわけだ。「教えて欲しければ、乞え」〈白夜〉が嘲った。「黙れ!」〈夕闇〉は銀のナイフを投げた。ナイフは食卓の中央で小刻みに震動して見えた。やがて静止。彼は舌打ちし、座り直した。「交換だ」「よかろう」

「妻の名はイルダ」「我が妻の名はイルダか」「違う、我が妻だ!」「きりがないぞ、我が弟よ」〈白夜〉が肩をすくめて見せた。「私は誠実に約束を守ろう。ねじけた貴様とは違う、まことの王であるゆえに」

〈白夜〉は一呼吸置いて勿体つけ、そして言った。「……この星に浸入した者あり」「胡乱な」〈夕闇〉は腕を組み、椅子にもたれた。「貴様の闘争願望には呆れたものだ! 妄想に私を付き合わせるな」

〈夕闇〉の非難は故なきものではない。実際、〈白夜〉は、金星からこの星に戻るなり、一方的な思い込みをもとに村ふたつ森ひとつを焼き打ちし、生き残った者たちも全て殺した。社交界での他愛ない会話、上位ネットワークを行き交う様々な噂や天候などを独自に解釈・読み解いた結果、星の一部が反光芒テロリスト集団の潜伏地と化していると誤認したのだ。

「住人も際限なく空気の中から無限に生み出せるものではない。繁殖させねばならんのだ。コスト! それを理由もなく殺しおって。来季の収穫にも響く」「灰は肥沃な土を生む」白夜がうっとりと呟いた。「なにより、我が星に反光芒テロリストの棲家が無い事をこの目と耳で実感できた。喜ばしい」

「ヘドが出る! 夢見心地めが」〈夕闇〉は吐き捨てた。「イルダの名にはまるで釣り合わぬ……」「現実を見ろ、〈西の夕闇〉」白夜は勿体つけながら言った。「侵入してきたのは……青ざめた馬の一団だ」「青ざめた馬だと?バカな……」「上位ネットワークを通じ、光芒会議がもたらした、確かな情報だ」

アルビノの王はしばし無言。血管の浮いた手でグラスを取り、口に含んだ。やがて呟いた。「……青ざめた馬……?だがなぜ我が星に。理由があるまい」「我が星だ」「奴は〈蠱惑〉の殺害をこころみ、〈火の諍い女〉に阻まれた。死んだとも聞くぞ?」「理由?そんな上等な連中ではない!」

〈白夜〉はバカにしたように言った。「光芒会議はたかが賞金稼ぎ風情を不自然なまでに恐れておる。死刑囚どもに私掠の権利を与え、銀河の秩序を乱す、それを見て見ぬ振りで済ませるなどと……」「目的も無しにこの辺境まで?」「然り。何をするかわからぬゆえに、充分に警戒せよとの通達であった」

「どちらにせよ、光芒貴族相手に表立って事を構えることはあるまい。犬に近いが、犬ではない」「怯懦!」〈白夜〉がピシャリと言った。「これは我が武勇をもって銀河秩序に貢献する好機だ!既に奴は光芒法を破っておる。事前通知無しの大気圏突入! 難癖つけて捕縛・処刑しても中央からは咎め無し」

「奴はこの星の何処にいる」「突入地点からそう遠くはない。私の情報だ。私のな」「私の投資したテクノロジーを用いてだろう。油断も隙もない点取り虫めが」「所有は私だ。貴様も貴様の兵を使え。精強さにおいて大きく劣ろうがな!」二者はしばし黙った。次のゲームの内容を、互いに把握したのだ。

「しかるべき勇壮を示した者が、妻を娶るにふさわしい」〈白夜〉が立ち上がった。〈夕闇〉は冷たく笑った。「イルダは既に我が妻だ。貴様には覆すことのできぬ真実よ。貴様が私を上回る事は何においてもない。戦さにおいてもな。それをわからせてやろう」「貴様は泣いて助けを乞う」白夜は身を翻した。

4:寒村

夕暮れを迎える村の建物はどれもひどい建て付けで、素人の拵えた玩具じみている。風が吹くたび嫌な軋み音が彼方此方から聴こえてくる。皆、闇の中で寒さを凌いでいる。炊事の煙が昇る家もある。彼らが収穫された穀物を口にすることは許されない。こうした小集落がこの星に一体幾つあるだろう?

村の広場には複数の死体が積まれ、羽虫がたかるそのままだ。死体は周辺の村々から集められた。罪人、反乱予備を疑われた者、逃走し森に逃れ、狩りだされた者……。彼らを許可なく埋葬してはならない。遠巻きに囲むのは双子王の抱える兵士達。白く塗られた合金鎧で全身を覆い、ライフル銃、光の槍。

「照会完了、全員分」兵の一人が頷くと、「応」別の一人が進み出て、背負った火炎放射器で死体を焼き始める。別の何人かはカーゴから麻袋を幾つも引きずり出し、さほど離れていない地面に次々に投げ出した。袋の端から中身がのぞいた。合成糧食のパッケージだ。闇の中から村人達が姿を見せた。

「ありがとうございます」「ありがとうございます」村人たちは地面に額を擦り付け、糧食の袋に手を伸ばした。兵士達は尊大にそのさまを見守った。「大気圏外からの侵入者が付近に潜んでおる」兵の一人が言った。「怪しいものがあれば突き出せ」「へえ」村人達はうつろに頷いた。

「怪しい者はいるか?いないわけはあるまい」「ああ」村人たちは顔を見合わせた。「誰か出せ」「へえ」一人が闇の中へ消えていった。やがて悲鳴。村人の手際はよかった。すぐに、若い村人が引きずられてきた。「この者です」「お前ら! 俺は何も……」「催事を怠け、手に負えない奴です」「畜生!」

「貴様、〈青ざめた馬〉に言い含められたか? ア?」兵士は男を張り倒し、押さえつけた。「畜生! 俺は何も!」「引っ立ててくれ。穀潰しじゃ」村の老人が重々しく言った。男は涙を溜めてその場の者たちを見た。「ほ、他の奴を連れてきてくれ! 俺の潔白を証明……」「引け」「アーッ! 嫌だ! 串刺しは!」

……そうした日常的光景を、カーゴの上に腰掛け、辟易した様子で見下ろす者があった。一般の兵士とは佇まいもシルエットも異なる、他の者の二倍以上はあろうかという体躯の持ち主。屈強な戦士だ。制服じみた金属鎧も身につけず、大口径のライフルを背負い、薄汚れたマントで身体を隠していた。

隊長よりも余程偉そうな彼は、星渡りの賞金稼ぎだった。双子王は食客としてこうした者をも抱えているのだ。「ここにも手がかりは無いようで……」近くにいた兵が怯えた苦笑を浮かべ、彼を振り仰いだ。「あン?」糧食バーをクチャクチャと噛みながら、男はその言葉を無視した。

ザワザワと森が葉を鳴らした。「ンー」男は瞬きし、耳に手のひらを当てた。ギャアギャアと騒ぎながら、この星の鳥達が夕暮れの空に黒い影を横切らせた。男は背負っていた大口径のライフルを反射的に構えた。柵の向こう、遠く、森の方角! 彼は銃口を向ける。兵士達がざわめき、銃や槍に手を伸ばす。

木々を割って飛び出したのは乗り手のないサイボーグ馬、三頭である。それから、馬たちが牽く鎖。鎖につながれた巨大な台車……台車に山積みとなっているのは、鎧姿の死体! 兵士達の死体だ! 台車の上、山積みの死体の間から、太い杭が生えている。そこに四、五人の死体が結ばれている! やはり兵士!

5:遭遇戦

「な……」「え?」「これ……」「アーッ!?」殺到する巨大な異常事態を目の当たりにした兵士達が恐慌に陥りかける。「鎮まれェーい!」賞金稼ぎの男が叫び、台車に狙いを定める。フルフェイス・ヘルムがせり上がり、彼の顔を覆い隠した。逆三角に配置された3つのカメラアイに火が灯った。

「ぎひャアーッ!」奇声が上がり、死体を跳ね除けながら、凶悪なモヒカン男が飛び出した。「俺様一番乗りだぜェーッ!」モヒカン男はその時すでにクロスボウの装填を済ませており、ただ引き金を引いた……賞金稼ぎめがけ! BOOOM!

賞金稼ぎは奇襲に既に反応していた。彼は跳んだ。カーゴにクロスボウ・ボルトが突き刺さり、爆発した。KABOOOM! 賞金稼ぎの男は大口径ライフルの狙いをモヒカン男にさだめた。だが引き金を引けない。人差し指が落下した。迫り来る台車の死体の山から、もう一人がようやく顔を出した。女だ。

「ウヌッ!」賞金稼ぎは受け身を取り、転がって、台車から飛び離れる。ヒュンヒュンと宙を旋回するのはナイフを持った手だ。「ギャスは辛抱が足りないんだねェ……だから三流……」女は呟いた。その右手首から先が無い。「引き付けないとさ……引き付けないとね!」彼女は台車から転がり落ちた。

狂ったサイボーグ馬は村へ、広場へ、台車ごと突入した。兵士達のもとへ! 彼らは悲鳴を上げ、目を剥いた。台車の死体の中から閃光が放たれる……KRA-TOOOOM! 死体に覆われ、隠されていた山積みの爆弾が、広場の只中で、炸裂した!

「何が」「ア、目が……真っ暗だ」「助け」「ヒィヤハアーッ!」躍りかかったモヒカン男、ギャス!瀕死の者らへ容赦無く手斧で斬りかかって行く!「俺がこの世で一番好きなのは弱い奴らをいたぶる事で! その次に好きなのが、てめェらのような手負いの奴らにトドメを刺す事よォーッ!」

「チィー!」賞金稼ぎは大口径ライフルを捨て、片刃の長剣を抜きはなった。刀身に紫の電気が這う。女、ミメエはそこへ容赦無くサブマシンガンの銃弾を撃ち込んだ。賞金稼ぎの刀身が稲妻の軌跡を描き、銃弾を斬り落としてゆく。「アーン……リロードだ」ミメエが唇を舐めた。賞金稼ぎは地を蹴った。

「アンタのその、ね、その刺繍」賞金稼ぎの斬撃をいなすのは、浮遊する右手である。ミメエは目を細める。「金星かな……? ワモンの部族……」賞金稼ぎは攻撃の手を緩めない。だがフルフェイス・ヘルムの下で、おそらく怪訝に眉根を寄せていたことだろう。斬り上げ、斬り下ろす。女に当たらない。

「知らない相手じゃないんだよ。半年ぐらいお世話になった。つまりアンタはアタシの家族と言っても、」左手が閃き、手首から先が飛んだ。その手に持ったナイフが、賞金稼ぎの心臓を正確に貫通した。「過言じゃない。素敵ね」賞金稼ぎの剣撃が止まるや、右手のナイフが首の後ろに飛び、斬り裂いた。

身体の二箇所から膨大な血を流し、賞金稼ぎは膝をつく。両手を切り離すミメエに、体格差の概念は無い。「おしまい」もはや意識を喪いうなだれた賞金稼ぎのもとを離れ、次の敵に備える。ブリンクアウト前兆が三つ。「雑魚のギャス。遊びは終わりな」「イヒャア!」ギャスは賞金稼ぎを断頭した。

「アタシらを見つけたこいつらのとこに、他の連中が集まる」ミメエが呟いた。ギャスは炎上するカーゴの陰に素早く身を隠し、ショットガンのロックを解除する。やがて、口元をスカーフで覆った小男が。鼠に似た頭を持つ種族が。ひょろりとした長身のスキンヘッドが。立て続けにブリンクアウトした。

6:二人の傭兵

彼らは戦さ慣れした傭兵であり、位相が確定しないブリンクアウト直後の状態で、状況把握と白兵戦の準備を済ませる。ゆえに、スキンヘッドの男が頭を撃ち抜かれて即死したのは不運だった。彼を殺した狙撃手は、ずっと離れた森の斜面で、理解不能なマントラを唱えながら、うつ伏せになっている。

そう、スキンヘッドの男は不運だった。出現するなり鼠頭の男とスカーフ覆面の男は一糸乱れぬ動きでミメエに襲いかかった。ミメエは防戦を強いられる。ギャスは口笛を吹きながら、ミメエの戦闘の趨勢を見ている。背後にブリンクアウト兆候が生じる。彼が気づくのは数秒後だろう。

凄惨な戦場と化したこの村を鳥のように上空から俯瞰して見れば、傭兵達が先遣隊めいて出現した更に一回り外周に、新たなブリンクアウト兆候が続々と生まれつつある事がわかるだろう。各所に設けられた転送アンテナを用いて、今、近隣の部隊が集結しつつあるのだ。

ギャスは背後で合金製の鉈を振り上げた敵に驚き、尻餅をつきながらショットガンを撃った。もう一秒遅れていればギャスは頭を割られて死んだだろう。今回はギャスが早かった。ミメエもそう呑気にしてはいられない。首筋に赤い筋が引き、極彩色の布の数カ所に血の染みが生じている。彼女の傷だ。

稲妻が閃くたび、制服めいた白い鎧姿の者達が村の周囲に増えてゆく。鼠頭と小男のコンビネーションはまるで血を分けた兄弟だ。ミメエは砂を蹴って目眩ましとし、カーゴの裏へ転がり込んだ。「来るんじゃねェ」ショットガンの弾丸を装填しながらギャスが泡を食った。敵二人はすぐに回り込んできた。

カーゴを背に、ミメエがギャスの耳を引っ張った。「サボるなって。アタシもいっぱいいっぱい」「あヒィ!」ミメエは右に、ギャスは左に避けた。彼らを割るように、鼠頭の強烈な縦斬撃が見舞われ、カーゴをひしゃげさせた。小男は鼠頭の陰から飛び出し、ミメエを追撃する。鼠頭はギャスに向かう。

包囲を徐々に狭めるは双子王の正規兵たち。数秒に一度ずつ、その頭がウンブダの狙撃によって爆ぜ、足並みが乱れる。それでも彼らは撤退をしない。彼らの支配者もまた、充分に無慈悲だからだ。

ミメエ、ギャス、ウンブダ。彼らはデスパレートな包囲戦に追い込まれている。見当が狂っただろうか? 否、そんな事はない。敵を殺し、増援を集めながら、彼らは待たねばならなかった。キャプテン・デスからの合図をだ。

彼らの首領は今、ずっと西の丘陵すれすれを飛ぶ竜の背にしがみついていた。

「念の為もう一度、意思確認をさせて頂きます」風の中、キャプテン・デスの襟元から、ピオが顔を出した。「貴方は光芒騎士の地位にある者を明確に害そうとしています。それは即ち光芒同盟そのものへの敵対行為。先代はそれを巧妙に避けてきたのです。これ以上踏み込めば取り繕いはもはや不可能に」

「怖いのか? 君に感情は無いんだろ!」キャプテン・デスは叫び返した。凄まじい加速の風の中だ。「勿論です」と、ピオ。「貴方の覚悟を確認しております。そして状況把握の程度を。それによってサポートの方針アルゴリズムを調整していきます」「覚悟……そんな事、わかるものか!」少年は言った。

「ぼくはあの時、やると決めた! だから! やる!」ゴウゴウと風が唸る。声を枯らして叫ぶ。「ねえさんを助け出す! それだけだ!」「バカバカしさ、ここに極まる」飛びながら竜のザラカが言葉を発した。「処刑を逃れた挙句、下等なセンチメンタリズムに塗れて私は死ぬというわけだ」「死ぬものか!」

「どうだかな」ザラカは言った。「お前はあまりに弱く、愚かだ。お前が死ねば私は終わりだ。ゆえに私は既に終わった」「命令に対して反抗的な態度を取ることは許されない」ピオが警告した。「うるさい虫め……」竜は羽ばたき、さらに速度を上げた。

#4に続く

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