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ダイハードテイルズ

ニンジャスレイヤー翻訳チームの母体である「ダイハードテイルズ」の公式ページです。「ダイハードテイルズ」は、本兌有と杉ライカを中心とした作家ユニットです。

【ペイルホース死す!】#4

小説 ペイルホース

 

1:陶器と肉

「なんと精強な我が軍……」〈東の白夜〉は感激に震えた。「貴様にも見えておろう。見えぬフリをしていようとも」彼はホットライン接続された通話機に向かって勝ち誇った。相手は無論〈西の夕闇〉である。「夜な夜な胡乱な偽科学にうつつを抜かすうらなりの錬金術かぶれには到底編成しえぬ戦力だ!」

勇ましき彼の天蓋には無数の武器が飾られ、気まぐれに刺し殺された護衛は、大理石の柱に槍ごと磔となって、既に数十分放置されている。宙に浮かぶホロ表示には戦力展開図が二種類。一方は現在〈青ざめた馬〉を押し潰しつつある包囲軍。もう一方は……城内図だ。イルダの寝室を目指す近衛軍達の動きである。

双子はそれぞれ、侍女たちの中でとくに見目麗しいものたちに戦闘訓練と肉体強化手術を施した近衛兵を持つ。〈白夜〉の近衛兵は、青布と青い金属の時代錯誤的な鎧を身に着け、熱線を放つ銃剣で武装した者達だ。今回の戦闘に並行して、イルダを奪還すべく、既に作戦を開始したのだ。

迎え撃つ〈西の夕闇〉の近衛兵は〈白夜〉のそれよりも数が少ない。麗しい陶製自律鎧の戦士たちが生身の戦士の替わりだ。近衛兵の戦力バランスは年に四度の折衝時に厳密にやり取りされ、互角を維持する決まりとなっている。

『笑止』〈夕闇〉はせせら笑いを返した。『貴様の慢心はいつもながら見ておられぬ』回廊の中継映像が飛ばされ、〈白夜〉は己の育て上げた青の兵が陶製自立鎧の射出する投槍で撃ち抜かれるさまを目にする。しかし〈白夜〉は鼻を鳴らした。「慢心は貴様よ。己自身の命も案ずるがよい」

『前時代的な、肉の信仰』〈夕闇〉が言った。『限界は近いぞ。よそ見をして勝ち誇っておる間に、包囲軍の動きを見てみよ』「何を負け惜しみを……」〈白夜〉はワインを口に含み、戦場の俯瞰映像を見やった。「何だと?」

『主、おそれながら、』「なぜ我が軍のマーカー数が半減している」『非常に』「早く画を投げてよこせ、馬鹿者!」指揮官からの通信に怒声で応えると、数秒後には上空からの中継が新たに映し出された。ひしゃげた金属を継ぎ接ぎにした身体をぎこちなく揺らす巨人が、包囲軍を踏み潰し、叩き潰す様が。

「何だ、あれは」『戦闘車両や……廃棄物を凝集した……何かです』「なにが、何かだ」なんたる無能。この者は車裂きにでもするか? 〈白夜〉は独りごちた。『ハッハハハハハハ!』耳障りな〈夕闇〉の嘲笑が割り込んできた。『肉の信仰であの巨人も倒せるのだろう? 阿呆の兵と、無駄飯食いの戦士で!』

「黙れ!」『では黙って観察しよう。錬金術かぶれには到底成し得ぬ貴様の戦力とやらが、胡乱な連中にかき乱される様を』「……」〈白夜〉の手の中でワイングラスにヒビが広がった。「貴様ならば、止められるか」『さて……』「取引材料として、近衛兵に与えた奪還作戦を一部明かしてもよい」

2:価値はない

「へひィッヒ!」叩きつけられる巨大な金属塊……巨人の足を転がって躱しながら、ギャスは情けない悲鳴を上げた。「何をふざけてやがるンだよ! ボゾ野郎!」彼の遥か頭上ではギゴギゴと音を立てて巨人の上体が捻じれ、また戻る。血管じみたケーブル類がのたうち、継ぎ目から金属片が降り注いだ。

巨人にはあって然るべき頭が無く、かわりにそのあたりから通常の縮尺の人間の上半身が生えていた。ボゾだ。だらしない笑みを浮かべ、ギャスを見下ろすその目には、気まぐれだが間違いのない悪意と殺意があった。「ハハ。ハ。ウフフ」ボゾは心底面白そうに笑った。彼の興味はすぐに他へ移った。

軸足の踵を伝って登ってこようとする双子王の兵士達を振り払い、確認しながら踏みつぶしてゆく。鈍重だが執拗かつ着実な殺戮が行われるたび、大地が爆ぜ、激しく震動した。「あの野郎、絶ッ対に制裁だ。チクッてやる」ギャスは歯噛みし、地面すれすれに伏せると、刃がそのすぐ上を通り過ぎた。

BANG! 伏せながら、ギャスはショットガンの最後の弾を撃った。鼠頭は繰り出した刃を稲妻のように戻し、刀身を立てて半身になり、散弾を防いでしまった。そこへ飛んできたのはミメエの右手だ。鼠頭は刃をクルクルと回し、この暗殺剣をも防いだ。大地が激しく揺れた。ボゾのひときわ強い動きだ。

鼠頭は一瞬たたらを踏んだ。ギャスはぶざまな平服姿勢のまま、蛙めいて跳ねるようにタックルした。鼠頭は足を取られ、倒れ込んだ。「やれ! 殺れ! 殺れーッ!」ギャスは喚いた。「俺を見殺しにしたら制裁だろうがーッ!」鼠頭は身を起そうとする。そこにギロチンめいてミメエの刃が落ちた。

「そんなルールは無い」ギロチンめいて断頭された鼠頭の首から血が溢れ出す様を見ながら、ミメエが冷たく言った。分離した彼女のもう一方の手は、飛びかかって来た小男を空中で貫いたまま静止している。「アタシらの命、等しく価値が無い」「たいした事ねえ連中だぜ」ギャスは素早く起き上がった。

「働きな」ミメエが鼠頭の剣を蹴ってよこした。「引き続き盾になるんだよ」「アマ! クズ傭兵のカタをつけたんだから、後はボゾにやらせりゃいい……」空を裂く音が接近してくる方向に、ギャスは怪訝な目を向けた。ボゾの歪な金属巨人はゆっくりと防御姿勢を取ろうとする。音の主はそこに衝突した。

KRAAAAASH! 分解しながら仰向けに倒れる巨人の破片を逃れ、ギャスとミメエは全力で走った。「何だありゃあ?」ギャスが走りながら振り返った。「物事ややこしくなりやがって!」飛来したもの……ボゾに体当たりを食らわせた陶製巨人が、背部ブースターを切り捨てながら流麗に着地した。

「ありゃあ手に余る。休憩、休憩」ミメエは遮蔽物の陰に座り込み、飲料水のチューブを咥えた。「サボるンじゃねえ、ボゾ!」ギャスが叫んだ。その視線の先、バラバラの堆積物がふたたびワイヤーに引きずられて集まり、ザワザワと隆起を始めた。ボゾが巨人を再構築している。先程よりイビツな体を。

「タロスとも違う? あの悪趣味な貴族趣味ときたら」ミメエが遮蔽物の陰から顔をのぞかせ、顔をしかめた。「ロボットに奢っちゃって……」陶製巨人は蠢くボゾの奇襲を警戒し、中腰姿勢を取って、拳を高く振り上げた。渾身の一撃をもってトドメをさそうというのだ。

「ときに、ウンブダの恍惚野郎!」ギャスが舌打ちした。「あの神がかり野郎はどこで油を売ってやがンだ? どいつもこいつもロクに働きやがらねえ……」拳を振り下ろそうとした陶製巨人の人工エメラルドの単眼が、緑の火花を放って爆ぜた。遠距離からの狙撃だ。ギャスは頷いた。「要はそういう事よ」

陶製巨人が怯んだ隙に、ボゾはゆっくりと起き上がった。そして襲い掛かった。陶製巨人は目から煙を噴いたが、その機能にさほど影響は無いと見え、両者は互いの手をつかみ合って、せり合いをはじめた。ギャスはクロスボウを拾い上げ、矢を装填する。包囲兵の生き残りが向かってきたのだ。

3:塵と美

「まったくもって! くだらぬ悪あがきよ!」〈西の夕闇〉は敵を嘲った。彼は城内に設けられた遠隔操作コクピットに己の身体を固定し、額に充てられた金属の輪からは脈打つチューブが伸びて、諸機械と接続されている。

その左目には黒い眼帯が嵌められている。裸眼の右目でモニタ類を確認、城内で繰り広げられている重大な競り合いの趨勢を監視するとともに、左目の眼帯装置を通して、陶製巨人の目から敵を見据えているのだ。遠隔狙撃のダメージは致命的とまではいかない。彼は巨人のバランスを立て直しにかかる。

押し合いは容易だ。流麗なる陶製巨人が力を込めると、不恰好な屑鉄の集積物は後ろへ押し出される。鉄屑を寄せ集め身体を形成する原理は不明で奇怪だが、陶製巨人の工芸品としての美しさの極み、流線型の機能美、美の力が後れを取ることは決してない。〈夕闇〉は不潔な塵の巨人を引きずり倒しにかかった。

「ぐむう」彼は怯んだ。耳と鼻から血が流れた。「なにが」左目に入ってくる視覚情報にささくれたノイズが混じり始め、動作の伝達にぎこちなさが生じ始める。「これは」白磁巨人と同調した彼の両手は、皮膚の下を虫に這われる間隔を伝えてくる。彼は事態を推察した。塵の巨人の血管じみたチューブ。

『何をしておる。倒せ!』「良いところなのだ!」〈夕闇〉は〈白夜〉に言い返す。〈白夜〉が取引として差し出した奪還作戦の情報開示が功を奏し、裏手からイルダの寝所に向かっていた一団を撃破する事に成功していた。『倒すのだ!』「だから今やっている……」『我々に留まる事態を超えて来たのだ!』

何を言っている? 〈夕闇〉は訝しんだ。その瞬間、腕の違和感は彼の脊髄近くまで這い登り、視界が真っ白に吹き飛びかけた。「嗚呼!」〈夕闇〉はやむを得ず陶製巨人との同調を解除した。これは彼にとって幸いだった。未練から切断を遅らせれば、彼は発狂していたかもしれない。ボゾの浸食によって。

「ゲホッ!」〈夕闇〉は咳き込み、使い物にならなくなった眼帯を引きちぎった。状況モニタの向こう、陶製巨人にはワイヤーが茨じみて這い狂い、無残な有様をさらしつつある。「貴様のせいで私の巨人はみすみす勝ちを逃したぞ!」『光芒会議の使者だ。〈夕闇〉よ』〈白夜〉の声は深刻だった。

「使者? 何だというのだ。何の用だ」『状況への介入を申し出てきているのだ』「バカな! 左様な治外法権を認められるものか。我らは貴族! 光芒騎士に何たる……」〈夕闇〉は予想外の方向から飛んできた憤怒になかば失神しかけた。「許せんぞ! 神聖なる戦さの最中だ。貴様は何を弱腰になっておるか」

だが〈白夜〉の諭すような声は沈痛ですらあった。『戦士(チャンピオン)が来ている』「戦士だと」〈夕闇〉は息を呑んだ。『三名だ』「三名だと!?」〈夕闇〉は叫んだ。「三名……何故そんな……」『鳥人ミリリイオーキ、顔無きクルワル、そして』〈白夜〉は深く呼吸したのち、『〈火の諍い女〉だ』

〈夕闇〉は恐怖のあまり身体を痙攣的に震わせた。「〈火の諍い女〉……何故……」『三名だ』〈白夜〉は繰り返した。「引き延ばせ。到着を」〈夕闇〉は呻くように言った。「とにかく時間を稼ぎ、考える……」『奴らの船は現在』〈白夜〉は言った。『この星の大気圏上に静止しているのだ』

4:竜の息

寿命をとうに迎えた太陽を延命する技術の秘密が「光芒」であり、この秘密を握る光芒会議を頂点とする光芒同盟が、現在の太陽系とその周辺を掌握する秩序の形態だ。戦士は光芒会議に直属する。領地を持たぬが、実際の権力は諸貴族よりも余程強く、一人一人の存在そのものが法と言ってよい。

「だが何故、彼らがこのような辺境に? 我々に後ろ暗き事などなにひとつ……」夕闇は繰り返した。『自明であろう。〈青ざめた馬〉だ!』白夜が言った。『会議の内情は知らぬ。だが、会議の犬めいて暴虐の限りを尽くしてきたキャプテン・デスの一味にいよいよ年貢の納め時が参ったという事だろう』

「よりによもってこの星で!」夕闇は震える手で覚醒シリンジに手を伸ばしながら、歯噛みした。「戦士だろうが知った事か。主権侵害を許すな。決して許してはならぬ。勝手をするなよ、〈白夜〉」『だが、大言壮語と共に送り出した貴様の巨大陶製騎士もあのザマとなった今……』「待て」夕闇が遮った。彼はホロ映像を見やった。

「なんだ。あれは」夕闇は呟いた。『どうした』「あれは。そんな馬鹿な」『どうした』「レーダーが拾っていないなどと……」『どうした!』「電磁波を発しておらぬゆえ……つまり、だが、いや、そうとしか……」『どうしたッ!』ついに映像はそれを肉眼で捉えられる精度で捕捉した。「竜だ!」

……ザラカは巨大な翼を最大に拡げ、空中で急停止した。「うがッ」キャプテン・デスは衝撃によって気絶しかかったが、ピオのバリアの補助が間に合い、それを免れた。「ザラカ」咎めるピオを無視し、竜はその場で羽ばたきながら、冷たい双眸で、遠く地平にかすかに見える建造物を睨みつけた。

「命令通りだ」ザラカは馬鹿にしたように言った。キャプテン・デスはハーネスにしがみついた。「その通りだ。やってくれザラカ」応えるように、それまで頭部の硬い皮の内側へ収納されていたザラカの二本の角が、後ろにせり出す。「主の安全を確保せよ、ザラカ」ピオが言った。ザラカは無視した。

黒く長く美しい角は竜の象徴のひとつであり、最大の武器の一部でもある。見よ、上空には放電を繰り返す厚い雲がたちこめ、周囲は夜にも等しい暗さとなった。ピオはキャプテン・デスを守る障壁の密度をおそらく最も強いものとし、備えた。ザラカの目が金色の光を放ち、二重の牙の並ぶ口を開いた。

1秒後、ザラカの双角に、厚い雲から落雷した。黒い角は爆発的な雷のエネルギーを余さず捉え、舌骨付近にある放出器官へ流し込んだ。ザラカは遠い地平に見える建造物を狙い、白い輝きを放出した。キャプテン・デスの視界は真っ白く焼け、音も奪われた。彼はその瞬間、気を失っていたかもしれない。

音の失せた世界でキャプテン・デスはスコープを取り、ザラカの攻撃がもたらした結果を見た。双子王の要塞周辺を覆っていた透明の障壁が虹のような輝きを散らして衰滅し、あまつさえ城壁は円く融解して、侵入経路をきわめて強引に作り出していた。「ゆくぞ」ザラカは主の返答を待たず、急加速した。

「ねえさん」少年は呻いた。何と恐るべきしもべたちであろう。だが彼らの力があれば、成し遂げられる。この降ってわいた力が無ければ、こんな望みは持たなかった。ではかつてのキャプテン・デスは何のためにこのような凄まじい者達を使役する人生を選んだのだろう。考えても仕方のない事だろうか。

5:陽動部隊

ザラカが風を切って飛翔し、双子王の城はあっという間に目と鼻の先だ。竜の背でキャプテン・デスはふと横へ首を巡らせ、幾つかの森を挟んだ遠い地を見やった。そこでは他のしもべ達が陽動戦を激しく繰り広げている最中の筈。双子王の戦力をその地に集め、その隙にザラカの突入を成功させる。

ミメエ達は辺境星の軍隊を一手に引き受けて暫く戦い続ける事ができよう。彼らを消費する事で、キャプテン・デスの目的は達成する。(船内の冷凍睡眠者を何体か覚醒する必要が出ます。光芒同盟に敵対する事で、いきおい今後の罪人の供給が断たれる点にもご留意を)ピオはそう説明したものだ。

数分前に垣間見たのは、無機物を集めて巨人と化したボゾが双子王所有の巨人兵器と組み合うさまであった。だが今その影は遠くから視認できない。戦局が動いたか。彼らの命が絶たれれば、ピオが伝えてくる筈。まだ彼らは戦い続けているのだ。「……?」キャプテン・デスは眉根を寄せた。「なにかが」

「突入に備えてください」ピオが言った。キャプテン・デスはピオに尋ねた。「陽動部隊の方角。兆候があるか?」「あります」ピオが認めた。「ブリンクアウト……ブリンクアウト地点は地上ではなく、成層圏付近? さほど質量は無いようです」「調べてくれ」「突入に備えてください」「わかってる」

「大気圏上に一隻、小型船が静止中。所属の割り出しは現在の状況下において私のスペックでは不可能ですが」ピオは発光部を明滅させる。「ブリンクアウト者、そのまま落下を開始。それから、小型船からもう一つなにか、」「よくない」キャプテン・デスはしばし逡巡したのち、言った。「ピオ。行け」

「何と?」「ピオ。君ひとりで全速で飛んだとして、ここからあの場所まで、どれくらいで行ける?」「突入に、」「備えるよ」キャプテン・デスは遮った。「君はあいつらを助けに行けるか」「質問意図がわかりません」ピオは答えた。「城内での戦闘が想定されます。私の護衛が必要」「あいつらもだ」

「発言意図がわかりません」「いやな予感がする」キャプテン・デスは言った。「君がサポートするんだ」「彼らは今回の作戦において、あの地で消費すべきものです」ピオが言った。「作戦の全てが崩れますよ。貴方は全力で目標物を目指すべきだ」「崩れはしない。当然、全力でやる」「では……」

「あいつらを使い捨てるにしても、早すぎる!」キャプテン・デスは言った。「そういう判断だ、ピオ。僕が考える合理的判断だ。ピオ。僕と君、どちらが主でどちらが従だ」「当然、貴方が主です」「ならば口答えするな」言いながら、しかし、少年の脳裏に浮かんでいたのは、あの朝食の光景だった。

「貴方の服にもクローク発生装置はあります。おわかりですね」ピオが言った。「しかし私の発生させるバリアの100%の代替物にはなりえません。くれぐれも慎重に」「わかった」「向かいます」キュン、と音を発すると、ピオの姿はもう無かった。弾丸めいて、陽動部隊めがけ飛んだのだ。

「飼い犬に感情移入」ザラカがキャプテン・デスを嘲った。「底抜けだな、キャプテン」「合理的判断だ」「さて。ベビーシッター無しの初の散歩か。流れ弾にせいぜい気を付ける事だ。そこまで責任は持たぬ」「無駄口を叩くな」竜は斜めに滑り込み、融解した城壁を超えて、驚くほど滑らかに停止した。

キャプテン・デスが背から降りると、既に竜の巨体は無く、ザラカは人に似た姿となってキャプテン・デスの横へ進み出た。「私の仕事は終わったようなものだ。〈竜の息〉はそう何度も吐けるものではない」「ゆくぞ。せいぜい僕を守るといい」「お前が私に制裁の手段を持っておるか否か、その真偽を試したくなってきたぞ」

6:顔無きクルワル

同刻、ミメエとギャスは垂直落下してきた物体によって生じたクレーターのふちに着地し、中心部の粉塵に用心深く得物を向けた。ボゾは離れた所で白磁とスクラップの巨大な混合物となって伏せていたが、ついにコントロールを完全に掌握すると、大地に手を付き、地響きを立てながら起き上がった。

「何だッてンだ、ア?」ギャスは片手でクロスボウを構え、片手で尻を掻く。落下してきたものが奇襲をかけてくれば、すぐさまミメエを盾にして安全な地点へ動けるよう、注意深く己の位置取りを調整している。「次から次へとよ」「上から来たよね。ずっと上から」ミメエは空を見た。

星のようなものがキラキラと光った。「あン?」ミメエは顔をしかめた。その2秒後、巨人ボゾは垂直に生じた光の柱によって貫かれていた。起き上がったばかりの巨体が分解しながら倒れ込み、クレーター斜面を瓦礫が転がった。「何だ! オイ! 何……」ギャスは泡を食った。「今のは、なン……」

叫びかけたギャスの顔がゆがんだ。ミメエの飛び蹴りが側頭部に突き刺さったのだ。ギャスは身体をくの字に曲げて吹き飛び、地面をバウンドした。ミメエは蹴りの反動で反対側へ飛び戻り、回転して着地した。その瞬間、ギャスが先ほどまで居た地点が光の柱に呑み込まれた。

「流石は〈青ざめた馬〉といったところか!」クレーター中心部の粉塵の中で笑い声が聞こえた。ミメエは振り向きながら防御姿勢を取った。「成程、守りも速い!」ミメエの剣に強烈な打ち込み。ミメエは呻いた。刃を挟んで、鏡めいてのっぺりとした顔無き顔があった。「流石〈青ざめた馬〉!」

「ハア? なんでクルワルが?」ミメエが狼狽を押し殺した。「アンタ〈顔無きクルワル〉だろ?」「儂を知っておるか!流石は〈青ざめた馬〉! 用心深い!」「黙りな!」ミメエが鍔迫り合いから押し返し、間合いを取った。離れながら彼女は両手を置いていった。両手はクルワルの追撃を押し留めた。

「そうだ! 流石は戦場漁りのミメエ。凶名を聞き及んでおるぞ。流石」〈顔無きクルワル〉は浮遊するミメエの手が繰り出す斬撃を笑いながら捌いてゆく。背丈はミメエより多少勝つ程度、しかし目を引くのはその身体である。左腕は肩口から先が無く、かわりに、背中から関節を三つ持つ腕が生えている。

右手には剣、背中の手が持つのは斧だ。そしてその顔。〈顔無きクルワル〉だ。後ろから飛来した矢を無造作に斧で叩き斬ると、クルワルはミメエの剣を捌いて間合いを詰める。「儂は保険の筈だったのだが。不細工な巨人一匹潰せただけとは。いやはや」「そりゃツイてないね」再び二者は切り結んだ。

「どうして〈戦士〉が出張ってくる?」「当然、貴様らが〈青ざめた馬〉ゆえに! 何故生きておる、〈青ざめた馬〉!」打ち込みながらクルワルが問うた。「あの場で滅びたキャプテン・デスとその手下がこうしてのびのび生きておったら、辻褄が合わぬであろう。辻褄合わせが戦士の仕事よ! 死ね!」

#5に続く

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