読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ダイハードテイルズ

ニンジャスレイヤー翻訳チームの母体である「ダイハードテイルズ」の公式ページです。「ダイハードテイルズ」は、本兌有と杉ライカを中心とした作家ユニットです。

【ペイルホース死す!】#5

小説 ペイルホース

 

1:鳥人ミリリイオーキ

人ミリリイオーキは宇宙のエテルを捉えて羽ばたく。彼のその巨大な翼が、〈鳥人〉なる異名の由来だ。乗り来た舟が徐々に遠ざかり、逆光のシルエットと化す。大気圏上で自らの位置を細かく調整しながら、遥か下で戦闘する者達の座標を修正し続ける。そして次の雷撃を発するまでに要する時間を読む。

 「やるなあ。避けるか、ふつう? 自信失くすよ」ミリリイオーキは蝸牛じみて異様な長さの両目スコープを飛び出させた奇怪なヘルメットの中で、抑揚のない声を発する。「たかが、ならずもの犯罪者のくせになあ。電磁波でも読んだのかな? 参ったなあ、クルワルに迷惑をかけてしまうぞ」

ミリリイオーキは呟き続ける。「もう少し……もう少し」宇宙には音が無く、孤独に過ぎる。そうでもしないと、ただそこにひとりで在るだけで、狂ってしまう。「くっついているな。さすがにクルワルを巻き添えにしたら怒られるぞ」クルワルの白兵戦相手は撃てない。やや離れた地点に、もう一体いる。

「……アイツならいける」ミリリイオーキはその一体に狙いを定め、雷撃のエネルギーの再充填を待つ。「動きも適当だな。そうだよ、犯罪者はそれでいいんだよ」2……1……ミリリイオーキは舌打ちする。そいつもクルワルとの白兵戦に加わった。「撃てないじゃないか」

ミリリイオーキは深呼吸し、息を止める。ならば雷撃の焦点を更に搾るとする。小指の爪ほどに。ゼロ……ゼロ……ゼロ……ゼロ……頭の中でカウントを繰り返す。流石に、この設定で動く的に当てるのは多少難儀な事だ……。「あれ?」ミリリイオーキの身体がぐらついた。左の翼が撃たれた。「何が?」

ミリリイオーキは数度羽ばたき、体勢を整える。左の翼に穿たれた小さな穴を浸出液が覆い、自己修復を行う。「撃たれたんだ。嘘だろ?」狙撃者の座標をすぐに割り出す。戦闘地点からはかなり離れたところからの射撃だ。「あれがウンブダか……あれ?」返し矢を放つとき、既にそこに狙撃者の姿はない。

「困ったぞ」ミリリイオーキは呟く。通常、ブリンク・イン/アウトにはある程度大規模な装置の助けが必要だ。当たり前の事だ。それを生身でやられては。「でも……まあ、仕方ない」どちらにせよ、相当なエネルギー消費が必要である筈。次の射撃をしてきた時に、仕切り直しだ。

「頼んだよ、クルワル。手一杯だよ」彼は数度羽ばたき、位置を調整する。……その遥か下。三本の腕を持ち、鏡じみた顔なき顔をもった戦士クルワルは、ミメエとギャス、二人がかりの攻撃にさほど怯んだ様子もなく、致命的な攻撃を繰り出し続けていた。

2:二対一

「やる気満々になったね、ギャス」ミメエが首筋の一撃を弾きながら、すぐ横のギャスに囁いた。「撃ッ、撃ッ、撃たれッちまう、畜生」「ハン……そういう判断ね」ギャスは勇ましく手斧とナイフを振り回し、クルワルの目と鼻の先でステップを踏むが、よくよく見れば積極的な攻撃は一度も試みていない。

「さあどうだ!」クルワルは関節を三つ持つ背中の腕を振り、斧でギャスの胴体に斬りつける。切り離されたミメエの手が割って入り、これを弾き返す。そしてもう一方の手で胴体に突き込む。「流石だ、成る程」クルワルは隻腕の刃でこれを逸らす。「よく防ぐ」「役に立ちな、ギャス。アタシが殺すぞ」

「俺の方が二倍戦っているぞ!」ギャスは激しく動き回りながら抗議する。「二倍だぞ!」クルワルの蹴りがその顔面に叩きつけられた。ギャスは地面を転がり、起き上がり、悲鳴を上げながら再び近接距離にすがりついた。「何しやがる!」「そう、ここだ」クルワルの背腕の斧がミメエの左肩を割った。

「続けて」隻腕の刃が心臓を突く。否、その刃は通らない。飛来したミメエの両手が刃を両側から挟んで止めたのだ。クルワルはすぐに刃から手を離し、ミメエの足を蹴り払い、腹部に肘打ちを入れた。ミメエは吹き飛び、倒れ込んだ。クルワルはギャスに向き直った。「へひィ!」ギャスは飛びさがった。

クルワルは間合いを取ろうとしたギャスの懐へそのまま踏み込み、背腕の斧を脳天に叩きつけた。「あわ!」ギャスの手斧が一撃で砕けた。ギャスは尻餅を突き、後ずさる。「待ってくれ! なあ待ってくれよ! 情報は全部やる。カシラの目的も、全部だ」彼らの背後、倒れ込んだミメエに光の矢が降った。

KABOOOM……非常に小さな焦点のレーザー光がもたらした爆発にミメエは呑まれた。「エッ!? あ、くたばッちまった! やったぜ!」ギャスはクルワルの肩越しに指さした。「いばりくさったあの女! なあ旦那、これで俺は自由だよ!」ずり下がりながらギャスがまくし立てる。クルワルは踏み込む。

「へへへ、俺ァ被害者ですぜ旦那!」ギャスは恐怖に歪んだ顔に笑みを浮かべ、へつらった。「あのな? キャプテン・デスのクソ野郎はよ、奴隷のガキに権利を譲渡してよ……で、そのガキときたら近親相姦の気がありやがって、テメェで夜な夜なマスかいてやがる懸想の姉ちゃんをさらえとよ」「下衆め」

「そう、下衆ですぜ旦那!」称されたのが自分の事であるとは露とも疑わぬギャスは勢いづいた。「とんでもねえぜ。俺はその点、義侠の男でさァ。信じてくれていいですぜ。旦那、キャプテン・デスは野良犬のドラゴン野郎と目下、双子王の城へ直行ですよ。俺らを捨て石の陽動にしやがってよ」

「心配せんでも、その可能性は押さえてあるでな」クルワルの声には微かに怒気が混じっている。「お前が我らに売れる情報なぞ特に無い」「え?そんな事ねえよ!」ギャスは泡を食って叫び返し、手の平を上向けて地面に伏せた。「この通り!この通りで!」「下衆め」「下衆だねえ」「制裁を覚悟せよ」

3:ミメエの剣技

二つの声の方向、クルワルは弾かれたように振り返った。ミメエの周囲に球状に張り巡らされた電磁障壁が減衰していく。彼女の肩の上に黒い甲虫に似たドロイドが浮遊している。「ギャス。背信行為は全て記録し、報告を……」「あれを防ぐか!流石だ!」クルワルは哄笑しながら再びミメエと切り結んだ。

「それは何だミメエ!」クルワルは打ち込んだ。「虫だね!」ミメエは弾き返す。負傷とクルワルのおそるべき膂力とで、防ぎきれず、よろめく。「どうしてスッ飛んで来たのか……知らないが!」「運も実力の内!流石!」クルワルは評価し、背腕の斧を叩きつける。ピオは巻き添えを避けて宙へ逃れる。

斧の重みに片膝をつかされながら、ミメエが右手を繰り出す。手首を離れ、クルワルの首を切断にゆく。クルワルは小首を傾げて難なくこれを躱す。そして鎖骨を隻腕の刃で刺した。ミメエの瞳孔が開いた。「勇ましき踊り」クルワルは呟き、刃を引き抜こうとする。その背にナイフが飛来する。

クルワルは瞬時に反応し、背腕の斧で切り払った。ナイフを投げたのはうつ伏せのギャスだ。ミメエの目が焦点を取り戻し、腕輪に仕込んだ刺突剣でクルワルの心臓を狙う。クルワルは鎖骨から引き抜いた刃でこれを打ち落とす。先程のミメエの手が弧を描いて飛び戻り、クルワルの首を後ろから刎ねた。

「ハッ!」ギャスは跳ね起き、満面の笑みで両親指を立てた。「演、計……計算通りだぜ! ビビったか? ミメエ? 俺は義侠の男ヒィ!」クルワルの首を刎ねたミメエの手がギャスに刃を投げつけた。ギャスは跳んで避けた。ミメエは後ろへ大の字に倒れた。クルワルの首から噴出する血が彼女を染めた。

「ハァー……ハァー……ハァーああ」血を浴びながら、ミメエは溜息をつく。「クルワル、アンタ買いかぶり過ぎだよ」彼女は目を閉じた。「アタシは殺せりゃいいのさ……」ピオが飛び戻り、すぐ上で浮かんだ。「止血をせねば死に至ります」「なら処置しなよ。守れって言われて来たんじゃないの?」

「俺の機転が無けりゃテメェは死んだぞ、クソ売女?」クルワルの懐を漁った後、ギャスはミメエに近づいた。「ピオ! 俺のはたらきをしっかり記録しとけ、コラ」「こいつはマジだった」ミメエが言った。「キツイお灸据えなよ」「チクリか?ますます売女だぜ! ピオ、俺が真実……おい、バリア出せ!」

ギャスは何かに思い至り、ミメエに覆いかぶさった。庇ったのではない。ピオは無言で彼ら全員を覆う範囲の障壁を作り出した。KABOOM! 一呼吸後、白光と轟音が周囲を包んだ。大気圏上からの雷撃。ピオが告げる。「当座のエネルギーが枯渇しました」「何だと!」「どけ!」ミメエは力を振り絞り、ギャスを跳ね除けた。

「またアレ、熱いのは嫌だね」ミメエは苦心して身を起こした。「治す力は残ってる?」「進めています」ピオが無感情に答えた。肉の焼ける匂い。ミメエは喘いだ。「バリア張れよ! 死んじまう」ギャスは喚く。「打ち止め」とミメエ。ギャスは逃げ出そうとするが、「制裁されます」ピオの静止に従う。

「谷に移動し、大気圏上からの攻撃を避けます。付近のサイボーグ馬を調達せよ。すぐに!」「俺がか」ギャスは唾を吐き、既に走り出している。「チクり野郎! 覚えてろ! 馬はどこだ……」「ボゾは置いていく?」ミメエがピオに問う。ピオはチカチカと光を瞬かせた。是認である。

「困った状況になって来たんじゃない?」ミメエは大人しく治療を受ける。ピオは質問に答える。「狙撃者の特徴から、あれが鳥人ミリリイオーキであることは間違いありません」「そりゃそうだ。〈戦士〉……ふたり」ミメエは呟く。「いいや、あのふたりで終わりのワケがない、少なくとも後もう一人……坊やに」

森の向こう、ミメエの耳は発砲音を捉える。その直後、光の矢はミメエ達ではなく、音の源に降った。「あれウンブダじゃない?」「そうです」ピオが答える。「対処させています」「弾除けにはなるか? で、アタシらはこれからどうする。虫ちゃん。アタシらを守れって坊やは言ったんだろ。この先は?」

「引き続き任務を遂行します」「死ぬまで戦やいいのかい」「馬だ! クソが!」サイボーグ馬にまたがるギャスが取って返してきた。馬の走りはぎこちない。「ホ。背に腹はかえられないね」ミメエは走りくる馬の鐙に手をかけ、ぐるりと宙返りするようにして、怯むギャスの後ろにまたがった。「行きな」

「突入の成功を確認しています」ミメエの耳の横を飛ぶピオが言った。「陽動は終了、このまま双子王の城へ向かい、援護します」「嫌だね、〈戦士〉とやり合うなんて聞いてない」ミメエは言った。「ま、ここにいても麦しかないし……」馬が加速した。すぐ後ろの地面が白く爆ぜた。「先には肉がある」

4:キャプテン・デスとザラカ

「この通路を右に」キャプテン・デスは黒曜石状の小端末を繰り返し見、後ろをついてくるザラカに指示する。小端末はピオと同期され、侵入経路をアシストする。「それはいいが、右の銃が弾切れだな」「あ……」キャプテン・デスは慌てて再装填を行う。「ごめん」「五分後に流れ弾に当たって死ぬ姿がありありと見えるな、キャプテン」

黒玉で装飾された白鋼の回転式拳銃は、少年にはおよそ不釣り合いだ。少年がザラカの軽蔑の眼差しを意識しながら弾丸の再装填を行ううち、通路角から陶製の犬が飛び出し、彼らに向かって激しく吠えた。「幸先よし」ザラカが腕を組んで言った。犬は跳ね、壁を蹴ってキャプテン・デスに襲いかかる。

少年は襲いかかる陶犬に慌てて左の銃を向ける。銀河に悪名高き凶賊の長が愛用した魔銃は持ち主の鼓動と筋肉の動きを読み取り、同調し、大きくそれた照準を修正する。彼が後ろに倒れながら引き金を引くと、顔の前で陶犬の頭部が爆ぜて飛んだ。ザラカは鼻を鳴らす。近づいてくる複数の足音。

犬は城内を巡回する生きた警報装置だ。すぐさま、付近の兵士が駆けつけてくる。キャプテン・デスは今度こそ再装填を済ませる。ザラカは腕組みしたまま微動だにしない。「その銃はこの太陽系の産ではない。あの忌まわしき男が愛したのも道理よ。宝の持ち腐れだ」「今はぼくのものだ」「文化破壊だ」

大勢の足音が曲がり角際まで押し寄せ、ピタリと止まった。今度は犬ではなく、拳大のガラス球が転がってきた。少年は反射的に手をかざした。ザラカは腕組みしたまま床を蹴り、少年の脇を通り過ぎ、そのガラス球を稲妻の如き速さで蹴り返した。「な……」「嘘……」どよめきは爆発音に掻き消される。

KBAM!閃光が晴れ、音の残響が磨かれた宮殿の壁を震わせる中、ザラカは怯んだ敵兵の群れの中へ滑り込んだ。「撃て!」「何だこいつの……」「アーッ!」「助け……」彼らは死ぬ前に叫び声をひとつ発するのがやっとだ。ザラカは青の装飾を身に着けた兵士六人をまたたく間に蹴り殺した。

キャプテン・デスは我に返り、ザラカを追って奥へ走った。そして凄惨な殺戮の痕に佇むザラカに慄いた。竜人はやや腰を落とし、前方の広間に続々と集まる青の兵を見据えた。「狙え!」「たった二人だ!」光弓。彼らの兵装は光だ。宮殿を弾薬や火の煤で汚すことはまかりならぬ。

「ぬうう、うう」青兵のしんがりで、身を伏せていた歪な巨兵が身をもたげた。頭は並の人間と変わらぬが、首から下は五倍大きく、 六つの乳房を揺らし、腰には青い絹の腰布ひとつ。自然の産物ではない。それは地獄のような肉体の化身。双子王の片割れである〈東の白夜〉の肉体信仰概念の顕示だ。

「貴様らは……」青兵が誰何する。だが言葉は続かなかった。ザラカが床を蹴り、舞った。最前列の者達の四肢が引きちぎれながら飛び、宮殿広間を鮮血が汚した。彼らはがむしゃらに光弓を撃つが、互いを融かして殺すばかりだった。ザラカの舞いはおぼろで、つねに四つ五つの残像を残した。

キャプテン・デスはザラカの舞いを前にして、ほとんどわけもわからず、二丁の拳銃で援護の射撃を行った。殺戮の竜巻が少年の恐怖を夢じみてぼんやりと現実感のないものに変えていた。白鋼の銃は狙いを助け、少年が殺人することを助けた。少年は撃ち続け、弾丸を再装填し、また撃ち続けた。

「あああ!」巨兵がザラカに濡れた岩のような拳を叩きつけた。ザラカはこの時初めて両手を用いた。手と手が円を描き、真正面から拳を受けた。ザラカは衝撃に押され、もはや生者まばらな広間を後ろに滑った。彼はヒュルルと音を立て、白い煙の筋を吐いた。「ああああ!」巨兵が逆の手を振り上げた。

BLAMBLAM! キャプテン・デスは銃を動かし、巨兵の腕を撃った。巨兵はバランスを崩し、ザラカに向けていた濁った眼をキャプテン・デスに動かす。残る青兵がザラカめがけ果敢に向かってゆく。光弓から熱線を放つ。巨兵はキャプテン・デスに、振り上げた拳を打ち下ろした。竜人は舌打ちした。

「う」「あ」「が、」竜人の三度の踏み込みで三人の青兵が宙に跳ね上げられた。その者達は致命的部位に掌打による損傷を受けており、手足をばたつかせて血泡を散らした。ザラカは斜めに跳んだ。そしてキャプテン・デスを狙った腕を横から蹴りつけた。KRASH! 巨兵の拳が柱を砕いた。

「黙って邪魔にならぬようにしておれ!」傍らに着地したザラカはキャプテン・デスを睨んだ。「白兵戦にはリズムの組み立てというものがある」「自分の身は自分で守らないといけないんだろ」少年は言い返した。「ぼくも必死なんだ。それとも、ぼくを守ってくれるのか」「減らず口を……」

「あああああ!」巨兵が吠えた。柱にぶつけた腕で再びキャプテン・デスをめがける。ザラカは少年の横に滑るように動き、巨大な腕に肘打ちを叩きつけ、弾き返した。「あああああ!」キャプテン・デスは息を呑み、両手の銃で巨兵の濁った両目を狙った。BBLAMNN!

「ああああ!」両目が爆ぜた。巨兵は大木じみて後ろへ倒れ込み、2、3人の青兵を巻き添えにした。既にザラカはクルクルと回転しながら跳躍していた。竜人は揃えた両足を鞭のように繰り出して巨兵の脳天に着地。頭蓋骨と脳とを踏み砕いた。残る青兵は未だ抵抗を止めなかったが、キャプテン・デスは機械のようにそれらを殺した。

5:思考は砂漠

「上だ」少年は広間の螺旋階段を駆け上がる。ザラカは無言で続く。回廊を走り進むと、大理石の床の夥しい血を拭き清める緑衣の侍女が二人。青ざめた馬の襲撃と無関係に、〈夕闇〉の緑兵と〈白夜〉の青兵が相争った痕だ。「あれは?」ザラカが訊いた。「違う」少年は答えた。侍女が彼らに気づいた。

「待ッ」キャプテン・デスは反射的にザラカを止めようとした。侍女が叫び声をあげかけたが、その時すでにザラカは至り、首骨を折って殺してしまった。もう一人の侍女の悲鳴はやはり音となる直前に、ザラカの無慈悲な回し蹴りによって断たれた。「なんてことを。兵でもないのに」「警報機と同じだ」

「それは……」「それは?」ザラカはキャプテン・デスを見、肩をすくめ、首を傾げてみせる。「それは?」「……いや。それでいい」「時間の無駄だ」ザラカは促す。彼が先導することはない。キャプテン・デスは死体から目をそらし、回廊沿いの扉に手をかける。グローブの磁気が施錠機構を破壊する。

長方形の部屋には無数の絵画と陶磁器が規則正しく飾られている。それらを吟味する時間は無いし、少年にはその金銭的価値をはかる素地もない。ザラカが不意に尋ねた。「双子の王が戯れに買い集めた奴隷を横取りし、それでどうする?」「興味があるのか」少年は呟いた。「人間なんてどうでもいいのかと」

「それはそうだ」と竜。「だが、その卑しい獣の、そのまた輪をかけてくだらぬ個体の気まぐれに、私は実際付き合わされておる。問う権利はあるな」思いのほか、饒舌だ。二者は正面の扉の施錠を破壊し、別の回廊へ進み出る。青と緑の死体が二つずつ。光弓の射撃音が奥から響いてくる。

「買われたのは、ぼくのねえさんだ。だから戦って取り戻す」「奴隷に姉も肉親もあるまい」竜はどうやって殖えるのだろう? 少年は不意に思う。彼は返した。「あの日まではそうだった。でも今は違う……違う事になった」「ある日、お仕着せのマントと銃を与えられ、己の欲をひねり出した。天晴れ」

「それでいいさ」少年は答えた。「お前の言うとおりだ」「姉を奪い、そしてどうする」「それは……」少年は言い淀んだ。竜は続けた。「お前の思考は砂漠だ。種は撒かれず、もたらす果実は無い。つまらぬ生い立ちがお前をそのように育てた。世界のことわりを知らず、想像を知らず、ゆえに己の行いを知らぬ」

「でも、君はぼくを助けなければならないぞ」「無論だ、無論」ほとんど欠伸混じりに竜は答える。「先代の欲、お前の欲、等しく価値が無い」彼は捻じれた自虐に酔っているようだった。キャプテン・デスは唸った。「君は相当、捨て鉢なんだな」「ハッハハハハ!」不意に竜は笑った。竜は真顔だった。「当然だろう」

二者は次第に足を速め、新たな広間に突入した。先程の広間よりなお大きく、天井付近には光放つ球体が固定され、左には緑石を輝かせる陶製兵が数体、右に青い鎧の肉の兵が数十人、向かい合って熱線を撃ち合っていた。

キャプテン・デスは陶製兵の後ろにある昇降機の扉を注視する。あれを使った先だ。戦闘を繰り広げる緑兵と青兵は、少年と竜人の乱入に即座に対応する事ができなかった。双子王の互いの争いは外の者から見れば狂った戯れでしかないが、実際にこの地の政治を機能させる血液の循環であり、外敵の侵入ごとき突発の出来事で即座に止められる習慣でもないのだ。

ザラカは床を蹴った。少年は壁沿いに走り出した。撃ち抜くようなザラカの蹴りが陶製兵のひとつ脇腹を捉え、光弓を減衰させる障壁がはがれると、たちまちその個体は執拗な青兵の射撃に抑え込まれ、関節を溶かしながら崩壊してゆく。戦力の拮抗が崩れた。ザラカは隣の陶製兵の破壊に向かう。少年は昇降機を目指す。

流れ弾の熱線が幾つか危うい位置を行き過ぎる。少年は扉に辿り着き、白金のプレートに触れる。グローブの機構が認証を騙し、昇降機をこの階に呼び寄せる。キャプテン・デスはザラカを振り返る。二体目の陶製兵が沈んだ。その瞬間、少年の目の前に赤毛の女がブリンクアウトした。〈火の諍い女〉が。

#6に続く